2007年03月17日

モシェにまつわるエトセトラ

ペサハ(過越し祭・パスオーバー)まで、あと2週間ちょっと。
スーパーマーケットには、ペサハ用の食品が置かれ、ショッピングセンターには新しい食器セットや贈物用品が並んでいます。新聞広告も、ペサハ商品ばかり。

今年は、4月2日の夕方から。
ユダヤ教の祝日はユダヤ暦ですから、西暦から見たら毎年移動します。とはいっても、ユダヤ暦には「うるう月」が入るので、ペサハは常に西暦の4月に当たるようになっています。たとえば昨年は、4月12日でした。


紀元前1260年頃、エジプトの奴隷だったユダヤ人が、圧政から免れるためにエジプトを出てきた、という故事に則っているのが、このペサハ。期間は1週間。

その指導者、モシェ。
日本人には、「モーゼ」「モーセ」のほうが分かりやすいですね。
私にしても、「モシェがエジプトからユダヤ人を・・・」なんて聞くと、「モシェって、農場でトラクターを乗り回しているオッサン? それとも、ガソリンの配達に来るドライバー? 彼がエジプトで何かしたの?」ってな感じになってしまいます。

モシェって、ユダヤ人にはごくごく普通の名前です。


さて、今日は名前のお話。
前回、エステルの由来はイシュタール、って一言書いたら、予想外に反響がよかったので、第2弾です。
今回はいきなりマニアックですが、ヒマな方は最後までお付き合い下さい。

旧約聖書によりますと、

・・・モシェはファラオ治世下のエジプトに生まれました。しかし、ユダヤ人の男の子狩りを免れるために籠に入れたまま川に捨てられますが、ファラオの王女に救われて、エジプト王家の一員として育てられます。
ところが大人になってから自らがユダヤ人で、同胞ユダヤ人がファラオの奴隷としてこき使われているのを知りました。勢い余ってエジプト人を殺してしまい、しばらく逃亡生活を送りましたが、神の啓示を聞いて、エジプトに戻ります。
マツァその後、ユダヤ人の解放とカナンの地(イスラエル)への移動をファラオに求めるも拒絶されますが、モーゼが預言した十の災難が実際のものとなり、ユダヤ人は大急ぎで非常食のクラッカー(マツァ→)を焼いて、エジプトを脱出したのでした・・・。



かなり割愛しました。詳しくはコチラでも読んでください。
1番有名なのは、チャールトン・ヘストンがモーゼ(モシェ)を演じた「十戒」という映画でしょう。


それでは、『モシェ』という名前。

ヘブライ語では、
「籠に入れられたモシェは王女に川から引き上げられたため、ヘブライ語で、『水から引き上げる』を意味する『モシェ』と名づけられました」
・・・ということになっています。
ヘブライ語で「水から引き上げる」という単語の三語幹は「MShH」。
これが「モシェ」という名前の・・・、


ちよつと待つたあ!
彼を引き上げたのは、ファラオの王女ですよね。
彼女は、「ハム語系の古代エジプト語」を話すはずで、隣接していながらも、「セム語系のヘブライ語」との言語の類似性は数えるほどしかありません。

コレに関する古い解釈では、
古代エジプト語では、水を「MW」、「取り上げる」を「S(Sh)」と言うため、これが「水から引き上げる」となる、
・・・と言われていました。

しかし、近年の解釈では、上記の「水+取り上げる」という解釈に関して、「聖書に書かれていることに基づいて、該当する文字を探して、それに当てはめて解釈しただけではないか?」と言われています。

私の手元にある古代エジプト語辞書を見ても、「取り上げる」という意味の「S」という単語がいくら探しても見つかりません。
ヒエログリフは確認されているだけで700文字以上ありますから、
どの文字が使われているかが分からないと憶測はいくらでも出来るのです。



じゃ、古代エジ語には、「モシェ」という名前に近い単語があるのか、と探しますと、「M・S」が、「子供・男の子」を現す単語に相当します。
別の解釈では、「M=子供」+「S=男」と2単語(2音)として考える、という説があり、現代学説ではこの支持が大きいのですが、今日は文法の話ではないし、どちらにせよ同じ意味なので話を進めます。


例えば有名なファラオの名前で、

◎ラメセス:「RA+M・S+S=太陽神ラーの男の子」
(最後のSは、男を強調する決定詞。漢字の部首みたいなもの)

◎トトメス:「TOT+M・S=トト神の男の子」

補足しますが、古代エジプト語には母音表記がなく、そのままでは読めないため、現代解釈では、全ての音に母音Eを当てはめて読む法則があります。


旧約聖書の初期時代では、「サラが笑ったから、イツハク(笑う→ツァハク)」とか、「踵を掴んで生まれてきたから、ヤアコブ(踵→アケブ)」など、その形態を表す名前がかなりありました。

ところが、古代エジプトにおいては、「美しい」「賢い」「優れた」「豊か」といった言葉から名前をつけることが多い。これは、ヒエログリフが漢字と同じように「表音文字かつ表意文字」だから。
ゆえに、「水から引き上げた」なんていう旧約初期のようなダンスウィズウルブスのような名付け方法は、古代エジプトにおいては存在しないのです。
ダンスウィズウルブスは関係ないだろう・・・。



この、『モシェ』が、男の子を表す『MS』だったとすると、それは彼の名前の「一部」であったことが容易に想像できます。
古代エジプトを見ても、『MS』だけの名前の人はいないようです。
ちなみに、ファラオの名前で見てみると、『MS』という言葉が使われるようになったのは、紀元前1550年頃から紀元前1000年頃までです。何かの流行だったのでしょうね。古代エジプト王朝は紀元前3000年から続きましたから、その時々に応じて名前の付け方だって変わります。


他の国の名字でも、

◎アイルランド(ゲール系)では、「オニール」「マクドナルド」などの名字の「オ」「マク」が「息子」を表す意味で、姓の由来は、「ニールの息子」「ドナルドの息子」

◎ユダヤ人では、「ベン・イェフダ」「ベン・エリエゼル」などの名字で使われている「ベン」が、「息子」を表す。つまり直訳したら、「イェフダの息子」「エリエゼルの息子」となりますね。
「十戒」でモーゼを演じたチャールトン・へストンで、もう1つ有名な映画が、「ベン・ハー(Ben・Hur)」。
本家ヘブ語では、「ベン・ホール」といいます。
「ホール」とはヘブライ語で「貴族」。ローマ支配下のエルサレムで、名門ホール家に生まれ何不自由なく育った主人公ユダが、濡れ衣を着せられて罪人奴隷となりり最後には解放される、という話ですね。
ヘブ語で、「ベン・ホリーム(“貴族”を指す“ホール”の複数形)」といえば、「奴隷から解放された自由人」の意味となります。

◎アRブ系でも、「ビン・ラーDィN」のビンっていうのは、ヘブ語の「ベン」と全く同じ意味です。ヘブ語とアラ語は激似。

「ラメセス」「トトメス」の「メス=〜の子供」というのは、神にあやかって付けた場合がほとんどですが、ファラオだけではなく、貴族の墓や碑文などにも、「何某(親)の子供」という書き方がされています。これがいわゆる名字のようなものでしょう。

もしも、本当に川に流れていたユダヤ人の子供をファラオの王女が救い上げて、王室に迎え入れたのならば、もっと名前が長ったらしいはず。
どの国でもそうですが、平民や農民の名前は短くて名字もないけれど、位が高くなればなるほど名前が長くなり、幼名・元服名・家系継承名に応じて変化もし、その出所・家系を明らかにするために、「〜の子供の・・・」とその由来を延々と書き連ねるのが普通。

そこに、「川に流れていたのを引き上げた」という名前を付けるのは、どう考えても有り得ません。これじゃ捨て子ということがバレバレでしょ。なんだ、捨て子でもファラオの家系になれるのか?ってことですから、由緒もなんもあったもんじゃない。


あんまり長くなると、話が別の方向にいってしまうので、この辺でまとめます。

『モシェ』っていうのは、本当はもっと長い名前だったあろうはずの名前の一部の『MS』が、時が経つにつれ、ユダヤ民族をエジプトから救い出した人の名前、として伝わった。
そして後日、古代エジプト語の意味を解さなかった人が、彼の出生にまつわる逸話から、その名前の由来を、ヘブライ語の単語の「水から引き上げる」と解釈した、・・・と。

モシェ、あなた、外国の名前なわけですよ。ヘブライ語じゃなくて。


ちょっと、マニアックすぎたかも。
素人がこんなにマジに書くなってね。
第3弾は、ない気がする・・・。

posted by Heshbonit at 13:00| イ国の言葉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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