2009年07月02日

カエラ=最愛???

先日、ヘブライ語を勉強されている方から、メールを頂戴しました。

「カエラという名前がヘブライ語で最愛という意味だと聞きましたが、そうなのでしょうか。辞書を見ても載っていないのですが」

私もどこかで読んだことがあり、「???」って思ったことでした。
折角なので本日の記事にさせていただきます(了承を戴いております)。

カエラ/ケイラ(Kaela。同様に、Kayla、Kaila、Kajla、Kaelah、Kaylah。派生してkayleeなど)は、東欧イディッシュ語・ロシア語圏のユダヤ人女性に多い名前です。スペルや読み方・呼び方は言語によって若干異なります。
「祖母の名であるカエラの意味を知りたい」と、カエラの語源を研究するイスラエル人が少なからずいるそうなのですが、結論から言いますと、カエラの語源は断定できていません。
しかし、ヘブライ語で「最愛」という意味ではない、ことだけは確かです。

※ 相当マニアックな説明です。一般の方はスルーして下さい。


1:Elah説

Elah(エラ)は、ヘブライ語でオーク(樹木)。女性に付けられる名前です。
さて。
ユダヤ教では「神の名をみだりに唱えてはならない」という教えがあり、聖書に書かれている神の名前「YHVH」は、聖職者が大贖罪日に唱える以外は口にしてはならない、といわれてきました。
しかし、厳格に戒律を守る宗教者の間では、みだりに唱えてはならないということにどんどん拍車がかかり、神という意味の言葉「エローム(Elohim)」も恐れ多いから口にしてはならぬとされ、一文字置き換えて「エローム(Elokim)」と呼ぶようになりました。今でも超宗教者の方達は「エロキーム」と唱えます。

Elah(エラ)は、木の名前なのですが、「EL=神」という単語が含まれているため、「意味は違えども同じスペルで似たような音だから口にするの恐れ多い」となり、一文字「K」を頭につけて、「Kaelah」に。

検証:当時の女性の名前の流行は分かりませんから、「K」が付けられる前に「Elah(エラ)」という人がどれだけいたのか不明なので、なんともいえません。


2:Hilah説

Hilah(ヒラ)は、ヘブライ語で「後光。天使の輪」。女性名です。
上の説明に繋がりますが、「H」が「K」に兌換した、と。

検証:この説はかなり無理があります。
この場合、HをKに置き換える理由は全くない上、Hの発音が出来ないわけでもなければ、Kに置き換えたら名前の意味がなくなってしまうからです。
同様に、Gilah(ギラ。ヘブライ語で喜びの意味)があり、「GがKに兌換した」という説もありますが、イディッシュ語圏に「G」の音が存在するのですから、この兌換は有り得ません。


3:Tzilah説

最も有力なのではないかといわれている説です。

Tzilah(ツィラ)は、ヘブライ語で「影(Shadow)」あるいは「影になっている場所(休息所)」。れっきとした女性名です。
影なんて名前はおかしいだろ、と思うかもしれませんが、元を辿れば由緒正しい人で、箱舟を作ったノアの姑(ノアの妻の母親)の名前です。

ヘブライ語のツ(Tz)は、ラテン文字に転じた時、「C/Ch」となることがあります。
これが、「C」の文字を日常では用いないドイツ語や東欧語になった時に、「K」に兌換されてしまう。
かくして、「Tzilah→Cilah→Kilah→Kaylah...」と変化してしまった、と。

検証:「Elah」と同様、当時の女性の名前の流行は分かりませんから、「K」に置き換えられる前に「Tzilah」という人がどれだけいたのか不明なので、なんともいえません。


4:Michaela(ミカエラ)のショートネーム説

間違いなくこじつけ。
それなら、男性バージョン、「ミ抜きのカエルさん」がたくさんいるはず。
男性名のミカエル(マイケル)の方が世界的に有名なんですから。
何よりも「ミカエラ」の「Ch」は、「カ(K/C)」とは違います。(下で説明します)。


5:Chay-la(カイ・ラ)説 注:私の憶測。

では、一体なにをどうして「最愛」なんて言い出したのでしょうか?

Chay(ハイ/カイ)は、ヘブライ語で「私の人生、命」。Laは、「彼女のモノ」
「私の人生は彼女のモノ」、「彼女に命を捧げます」。
これが「カエラ=最愛説」に飛躍したのではないでしょうか。

たぶん、英語圏在住のユダヤ人やヘブライ語に興味がある人が、「カエラ」という語源の答えがないため、音だけで適当に判断したのでしょう。
喉に引っ掛ける「Ch(ハ)」の音が出来ない英語圏の人は、しばし「K」に近い音で発音しますから(ちなみに、日本人は「ハ」と発音することが多い)。

そうだとしたら、もう完全なこじつけです。

イスラエル建国前に世界各地に離散して住んでいたユダヤ人は、聖書に登場する人物の名前か、現地人と同化できる現地語の名前を付けていました。特に女性の場合、聖書名よりも現地同化名を好む傾向があったようです。
東欧〜ロシア圏の言語に、「カエラ」という名前のルーツが見当たらないとなると、聖書から引用された名前の変形とみなすのが妥当です。だとしたら、上で挙げた「Elah」や「Tzilah」なら説明は付きますが、「Chay・la」は、東欧〜ロシア圏の「カエラ」とは全く無縁です。

というのも、単語の語頭や語尾に「La(彼女の)」とか「Li(私の)」という文字を結合した名前を付けるのは、イスラエルでも20〜30年程前の流行で、歴史的に由緒のある名前でもなんでもないのです。
(例:オルリー=私の光、シルリー=私の詩、リヒ=彼女は私のもの…)。

つまり、ヘブライ語がよく分からない人が辞書をペラペラめくって、、
「カイ(命)+ラ(彼女)…、カイラ…、分かった! カエラは最愛だ!」
なんて感じでこじつけたのでしょう。
第一、ヘブライ語で表記した場合、「K」ではなく「Ch」の文字を使う上、東欧・ロシア語圏に「Ch」の音が存在するのですから、この兌換は言語学上、絶対に有り得ません。

ちなみに、東欧圏で「カエラ」と名乗っていた女性がイスラエルに移民してきた時、音が似ているからと、「Carmel(カルメル)/Carmela(カルメラ)」とヘブライ語風に改名したり、「祖母がカエラだったから」と自分の子供に「カルメラ」とつける人もいたそうです。
「カルメル」は葡萄園の意味で、ユダヤ教聖地の山の名でもあります。なお、「カルメル/ラ」と名乗る人全員のオリジナルがカエラだったわけではありません。

ダメ押しですが、「カエラ」という名前がヘブライ語で「最愛」という意味を持つならば、東欧諸国からこの地に移民したカエラさんが、わざわざ「カルメル(ラ)」に改名する必要はなかったでしょうし、現代イスラエルには、「カエラ」という名前の女性が溢れているはずです。
イスラエルで「Chay・la」という名前の女性、若干はいるらしいのですが、スペルが「兵士(Chayl・ハヤル)」に似ているため、好んでつける名前ではありません。

他にもいくつかありましたが、どれもこじつけで意味不明でした。
「アラビア語で最愛」という説もあるそうですが、だとするとイディッシュ語圏の「カエラ」とは同音異義語ですから、ここでは言及しません。
とは言いながらもさらにダメ押しですが、アラビア語圏出身のユダヤ人女性で「カエラ」と名乗っていた人はいないし、「カエラ」というアラブ系の女性なんて聞かないですね(イスラエルの20%はアラブ系)。

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なお、Kaelaという音だけを、現代イスラエル人が聞いたら、
「Kaele(それらのような。Like these)」と認識するでしょう。

イスラエル人の彼/彼女がいる人が、メールや手紙の冒頭や語尾に、
「My Dearest」の代わりに、「My Kaela」なんて書いたら、
「私のそれらのようなもの??、ってオレはその他大勢かっ?」
と全く意味が伝わらないに違いありません。

蛇足ですが、LとRを間違えて、「Kaerah/Kayrah」になると、
「どんぶり」です。
           

こんな感じでよろしいでしょうか。
   
posted by Heshbonit at 19:00| イ国の言葉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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